ゼオライトとは

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天然ゼオライト(沸石)の特性

 新しい非金属資源の一種天然ゼオライトは―鉱物名:沸石(zeolite)―を主要構成物とする珪酸塩鉱物の混合体であり、後に述べる様なそれの持つ特殊な性質が活用される事により利用され始めて約30年が経過している。その年間の利用量は大略15万トンに達しており、最近約10年近くの間は略一定の状態を保っている。その利用に当たっての特性の一部としては陽イオン交換性、ガスの吸着性、その一端としての吸湿性等が知られている。その結果、それ等の特性を利用する事に依りイオン交換体、ガス吸着剤(モレキュラーシーブ)、脱臭材、脱湿乾燥材、水処理材、触媒及びその担体、土壌改良剤、家畜排泄物処理材、猫砂等の多岐にわたる用途が開発されて来ている。

 さらに近年は環境保全、公害防止等の分野への研究開発も進められている。その場合に特に重要な問題は各種の利用に当たってその特性が産地毎に共通性を持つ事が必要とされる事であり、それにはその特性の測定方法も合わせて一定の基準によること、或いはそれらの標準化を行う事が大切である。

天然ゼオライト国際基準(標準化)設定の必然性

 ゼオライトの名称は天然に産出する無機資源を原料として製造したゼオライト製品に対するものであり、その実質は沸石(zeolite)鉱物であって含沸石岩を主要構成物とした無機物資源である。現在天然に産出する沸石鉱物は日本で初めて発見された神奈川県湯河原温泉不動の滝産出の‘湯河原沸石’を含めて60種以上の種が知られている。その主要な種に付き各々の種族、名称、化学組成、結晶系等に付き示すと下記の表の様になる。この中で資源とされて利用されている種は極めて限られており、我が国では斜プチロル沸石とモルデン沸石の二種に限られるが、外国の場合ではこの二種の他に菱沸石等の少数の種が加わる状態である。

 沸石(zeolite)は立体網目状構造を持つ珪酸塩鉱物の一種であって、Si-O4の四面体のSiの一部をAlで置換したアルミノ珪酸塩鉱物である。その化学組成としては、珪酸、アルミナと共にアルカリ及びアルカリ土類イオンと更にやや多量の水が主要成分として上げられる。次いでその特性として結晶構造中に微細な空洞、管状空隙(オングストローム単位)が発達する事と、含有する水分に二種があってそれは沸石水と結晶水とである事である。この沸石水は特殊な性質、即ち一定温度内の加熱(多くの場合400℃程度)に依り脱水するが低温湿潤状態に於いて復元する性質を持つ水分である。尚この脱水、吸水の変化に依る珪酸塩の網目状構造の破壊は起こらないとされている。これ等の性状がそのイオン交換性、ガス吸着特性に関係すると考えられている。

 一方この沸石類の一部は前述した様に、陽イオン交換性、ガス体の選択吸着特性(沸石水を脱水した状態で)、触媒作用等を持つために工業、特に石油工業分野において注目され、利用面が開発されて来たがそれは人工物即ち合成ゼオライトの利用として、合成物の合成方法も合わせて開発され発展した結果となった。

表 国際鉱物連合(IMA)勧告の命名法に従った天然ゼオライトの分類
鉱物種 結晶構造型 Si比 骨格外陽イオン
―――曹沸石群―――
 曹沸石
*正方曹沸石
*準曹沸石
 中性沸石
 灰沸石
 ゴンナルド沸石
 トムソン沸石
 エディントン沸石
 カルボルス沸石
 
NAT
NAT
NAT
NAT
NAT
NAT
THO
EDI
EDI?
 
0.59-0.62
0.50-0.59
-0.6
0.59-0.62
0.60-0.62
0.52-0.62
0.50-0.56
0.59-0.61
-0.6
 
Na
Na,Ca
Na,Ca
Ca,Na
Ca
Na,Ca
Ca,Na
Ba
K,B
―――方沸石群―――
 方沸石
 ワイケラ沸石
 白榴石
 アンモニア白榴石
 ポルックス石
 濁沸石
 湯河原沸石
 
ANA
ANA
ANA
ANA
ANA
LAU
YUG
 
0.59-0.73
0.65-0.69
0.66-0.69
0.70
0.67-0.74
0.64-0.70
0.74-0.76
 
Na
Ca
K
NH4,Tl,K
Cs,Na
Ca
Ca
―――水灰長石(ギスモンド沸石)―――
 水灰長石(ギスモンド沸石)
 エイミス沸石
 ガロン沸石
 ゴビンス沸石
#灰十字沸石、曹―、加里―
 重土十字沸石
#加里ポーリング沸石
 マーリノ沸石
 モンテソンマ沸石
 マッツ沸石
 
GIS
GIS
GIS
GIS
PHI
PHI
PAU
MER
MON
MAZ
 
0.51-0.54
-0.5
0.60-0.65
0.62-0.68
0.56-0.77
0.68-0.71
0.73-0.77
0.66-0.71
0.70
0.72
 
Ca
K,Na
Ca,Na
Na
Ca,Na,K,Ba
Ba
K,Ca,Na,Ba
K,Ca
K
Mg,K,Ca
―――菱沸石群―――
#灰菱沸石、曹―、加里―
 ウィルヘンダーソン沸石
#曹グメリン沸石、灰―、加里―
#灰レビン沸石、曹―
#曹毛沸石、加里―、灰―
 オフレット沸石
#曹フォージャス沸石、灰―、苦土―
 パーリアル沸石
 ベルバーグ沸石
 チョルトネル沸石
 
CHA
CHA
GME
LEV
ERI
OFF
FAU
LTL
EAB
未定
 
0.58-0.81
-0.5
0.65-0.72
0.62-0.70
0.68-0.79
0.69-0.74
0.68-0.74
0.65-0.67
-0.5
-0.5
 
Ca,Na,K
Ca,K
Na,Ca,K
Ca,Na
Na,K,Ca
Ca,K,Mg
Na,Ca,Mg
K,Na
Ca,Sr,K
Ca,Cu,Sr,K
―――モルデン沸石群―――
 モルデン沸石
#曹ダキアルド沸石、灰―
 剥沸石
#苦土フェリエル沸石、加里z―、曹―
 バイキラ沸石
 マンコパ沸石
 ボッグズ沸石
 ゴッタルディ沸石
 ミュリナ沸石
 テルラノヴ沸石
 チェルニック沸石
 
MOR
DAC
EPI
FER
BIK
-MOR?
BOG
NES
MFI
TER
BEA
 
0.80-0.85
0.78-0.86
0.72-0.77
0.80-0.88
0.67
0.76
0.81
0.86
0.88
0.85
0.73-0.80
 
Na,Ca,K
Na,Ca
Ca
Mg,K,Na
Li
Pb,Ca
Ca,Na
Ca,Na,Mg
Ca,Na
Na,Ca
Ca
―――輝沸石群―――
#灰輝沸石、曹―、加里―、Sr―
#灰斜プチロル沸石、曹―、加里―
#灰束沸石、曹―
 ステラー沸石
 バルレル沸石
#Sr-ブリウスタ沸石、重土―
 グーズクリーク沸石
 パーセ沸石
 
HEU
HEU
STI
STI
STI
BRE
GOO
-PAR
 
0.71-0.80
0.80-0.84
0.71-0.78
0.75-0.78
0.77-0.78
0.73-0.74
0.75
-0.5
 
Ca,Na,K,Sr
Ca,Na,K
Ca,Na
Ca
Na
Sr,Ba
Ca
Ca
―――構造未定アルミノ珪酸塩沸石―――
 カウレス沸石
 
未定
 
0.60-0.62
 
Ca
―――ベリロ珪酸塩沸石群―――
 ロギアン沸石
 シャンハル沸石
 ロフダル沸石
 チアヴェン沸石
*ツヴェダ沸石
 
-ROG
ANA
LOV
-CHI
-CHI?
 
0.58
-0.5
0.75
0.63-0.66
0.67
 
Ca
Ca,Li
Na,Ca
Mn,Ca
Ca,Mn
―――ベリロ燐酸塩沸石群―――
 パハサパ沸石
 ヴェイネビーン沸石
―――亜鉛珪酸塩沸石群―――
 ゴールト沸石
 
RHO
WEI
 
VSV
 
Be:P=1:1
Be:P=3:2
 
0.78
 
Ca,Li,K
Ca,K
 
Na

*状態不確定ゼオライト種
#成分系ゼオライト種

ゼオライトの産状

 ゼオライト鉱物の生成する地質的環境は比較的低温低圧の熱水環境である。一つの例として安山岩、玄武岩等の岩石の空隙に方解石等の熱水鉱物を伴い美麗な結晶として産出する場合である。この様な場合は最も多く目に付く産状であり、良好な結晶形態を示すことが多いので鉱物標本としては珍重されるが、その利用できる量は限られており、資源としての利用は困難である。

 その他の産状としては火成岩に関連する場合として、花崗岩ペグマタイトの末期の晶出鉱物として少量産出する場合、或いは特殊なアルカリ火成岩例えばフォノライト等の構成鉱物として産出する場合などがある。造岩鉱物の一部として産出する場合は資源として量が確保されるので利用することが可能になる。その一つの例としてドイツ西南部カイザースツール地方産出のフォノライトの場合が挙げられる。

 酸性火山岩源の凝灰岩が埋没続成変質作用による変成を受け沸石凝灰岩を形成する産状が挙げられるがこの場合は沸石の含有量も良好であり、更にその埋蔵量も豊富な場合が多くゼオライト資源として最も適する産状である。わが国の資源の大半はこの状態であり、十数ヶ所の鉱山の例も一、二ヶ所を除きこの成因である。又国外の例を見てもその大半の場合はこの成因によるものである。

 鹹水の作用による成因として内陸の鹹湖堆積層に含まれる酸性火山岩放出物の沸石化の場合がある。ゼオライト資源としての利用も行われているが続成変質作用の場合に比較してその例は少ない。尚この成因と類似の沸石の成因として海水に依る作用として深海底堆積物の構成鉱物としての存在が知られている。

 風化作用による沸石鉱物の生成がイタリア南部などに知られている。即ちポゾランの生成である。建築用石材等として利用されている。

 このように幾つかの沸石の成因が明らかとされており、各々の状況に応じてそれらがゼオライト資源として新たな非金属資源として活用されている。

ゼオライトの鉱山開発

 以上の様にゼオライトの成因、産状は多岐に亙っているので各々の場合にあった資源開発とその利用が図られている。現在ゼオライトの資源を供給している産状として我が国ではその大半は埋没続成作用により生成した沸石凝灰岩よりの物であるがその一部には熱水作用の加わった場合が見られる。その場合沸石を供給する鉱床は地質的には比較的新しい地層である新第三紀の中新世及鮮新世の火山性堆積層中に胚胎するため凝灰岩としての特徴を持ち緩傾斜であることが多いが場合によっては褶曲、断層が発達し複雑に地層が変化することもあり探査採掘に困難な場合も見られる。このような場合はその地質構造等を十分調査して目的に適した採掘が可能であるよう配慮しなければならない。

 また国外の鉱床では国内の場合と異なり、鉱床が鹹湖堆積層中に胚胎する場合では湖成として形成された火山性堆積層である場合、火山岩の一種であるフォノライトなどが対象となることもある。前者は我が国の場合と類似して凝灰岩として賦存するが、後者では大体塊状の岩体の良好な部分を状況に適合するよう採掘する事になる。

 ゼオライトの主要な成因としては以上の様であるが、これらを資源として開発する場合、供給できる品質の範囲と、供給可能な量を開発計画段階で正しく推定する必要がある。

ゼオライト鉱床の探査

i)調査対象の限定

 従来までに知られている開発可能な天然ゼオライト資源となり得る地質環境として、第一に低温低圧環境の熱水変質作用或いは続成変質作用を受けた酸性火山岩マグマ起源のガラス質凝灰岩層が挙げられる。ガラス質凝灰岩であっても塩基性マグマ起源のものはFe、Mgに富むため同一環境でも緑泥石などの粘土鉱物が生成してゼオライトは生成しにくく、Si、Al、アルカリ及びアルカリ土類金属などに豊富な酸性マグマ起源の凝灰岩が有望である。

ii)調査地域の限定

 大量を確保するためには凝灰岩層は粒度が細粒で、層厚の厚いものが望ましい。粒度が粗い場合はゼオライトに変化するガラス部分の量が相対的に減少し、結果として生成するゼオライトの量が限定される。厚い凝灰岩層の生成は激しい火山活動の産物であり、通常広域的地質調査で特定の凝灰岩層の追跡が可能である。既存の公刊された地質図、及び衛星画像の解析などを併用すれば比較的容易に候補地を限定することが可能である。

iii)試料調査

 標的とされる酸性ガラス質凝灰岩層が選択された場合、先ず挙大程度の試料について偏光顕微鏡による観察に基づく岩石学的調査、X線回折による鉱物学的調査を行い、それで有望である可能性が期待された場合、化学分析、CEC値測定などを追加する。CECの測定値は将来の開発可能性の判断に使用する。この段階の調査で有望であると判定された場合に次の段階に進む。

iv)対象地域の評価

 ガラス質酸性凝灰岩の広域的分布状況を詳細な地形図上(1/25,000程度)で追跡、確認する。この地図上で有望と判定された試料の分布する範囲について、更に地区ごとに細分して夫々の地区を代表する試料を採集し、X線回折、CEC分析などで品質の地域的分布状況を縮尺の大きい詳細な地図の上で追跡する。現在の商品の販売価格を基準としてそれと同等のゼオライト鉱物含有量、CEC値となる品質等級を設け、品質等級区分ごとの分布範囲を地図上に描く。商品として特殊な用途が期待できる性質がある場合にはその性質の測定も実施し、可能であれば同じ地図上に表示する

開発計画

i)鉱量計算

 各種地上権利関係その他地表地形条件と純粋に鉱物学的性質からの判断とを勘案して、具体的に採掘に着手する場合の開発の構想を生成し、その構想にしたがった採掘範囲の体積を計算し、岩石比重を乗じて鉱量とする。その際、もし可能であればそれまでに得られた分析結果と、それに基づく生産物の予想される販売価格から、販売価格等級別の鉱量として計算する。また生産に着手するまでに必要とされる剥土量の計算も同様に行う。

ii)生産計画

 生産に着手した場合予想される販売数量に基づいた生産量を定める。生産量で鉱量を除すれば資源の寿命が得られる。生産量を維持するための採掘計画を立て、それに必要な作業量を計算する。これには採掘から商品に仕上げるまでの処理施設の建設、その他各種の必要機材の手当ても含める。

iii)収支計算

 生産計画に基づき生産物販売から予想される収入を推定する。次に必要とされる設備への初期投資額、さらに操業に移行した場合の操業費用の見積もりを行う。初期投資の償却も含めて年次ごとの収支計算を行う。またその対象とする地域の鉱業権関係、地上権関係の現状調査を行い、権利獲得に要する費用も概算し、初期投資額に加える。近隣からの苦情に対する対策、公害防止対策に要する費用も考慮する必要がある。

iv)利益還元率の計算

 上記試算には生産物の販売量、販売価格の変動というリスクがある。このリスクを最小にとどめるため、2種類以上の異なった生産規模の生産計画を作成し、それに基づく収支計算を行い比較する必要がある。夫々の生産計画の比較は、夫々の場合の利益還元率を計算し、それ以外の要素との総合判断で行う。

天然ゼオライトの製造工程

 天然ゼオライトの採掘後の生産工場における各製造工程とサンプリング場所について、工程の流れと重要な個所毎にサンプリング場所を設計当初から組み入れると、工程管理に役立つ、一般的製造工程と一般的サンプリング場所の事例として、生産業界の現況を表す。

製造工程(具体的一般事例)

①採掘工程

表土除去後ベンチカット方式で切り羽整形する。
採掘作業は油圧ブレーカー、パワーショベル等の重機により大塊を含む原石として採掘されている。

②原石運搬工程

原石を切り羽から工場までタイヤローダー、ダンプトラック等により場内又は場外搬送されている。

③一次破砕工程

大塊を含む原石を乾燥できる塊までインペラブレーカー、ロールブレーカー等を用いた破砕機の使用例が多い。

④一次分級工程

乾燥できる塊まで振動篩で大塊を分級する。

⑤乾燥工程

設定水分までロータリーキルン等の乾燥機で乾燥する。

⑥二次粉砕工程

設定粒度までインペラブレーカー、ロールブレーカー等で粉砕し製品とする。

⑦二次分級工程

振動篩により、各種品揃えの分級をする。

⑧製品貯蔵工程

鉄製単槽・群槽角タンク・丸タンクにより品種別に貯蔵される。

⑨加工工程

造粒・熱化学処理等の工程で各種特殊品として各社毎の扱い品目に加工される。

⑩荷姿別出荷工程

計量・袋詰・積込み・在庫管理の作業工程

工程別サンプリング場所(分析項目事例)

①工場搬入品(化学組成等)
②原石破砕品(粒度分布)
③分級品(粒度分布)
④乾燥品(水分)
⑤二次粉砕品(粒度分布)
⑥二次分級(粒度分布)
⑦~⑨加工特殊品(各種分析)
⑩出荷品(全分析)

鉱物学的性質の概要

選定された10試料の基礎的性質の研究方法としては次の三つの項目が上げられる。即ち
・鉱物組成解析法
・化学分析方
・沸石試料の分離法

であるがその第一の検討としては、各々の鉱物組成を明らかにする事が最初に上げられる事である。その手法としては、対象物が今回のゼオライト資源であるような微細鉱物粒の集合体として構成される試料である場合は次の様な方法を用いて検討されるのが通常の方法である。

参考文献

■文献図書 天然ゼオライト ~利用にあたっての品質評価基準~
■氏名 湊秀雄、大串融、松永斉
■出版 日本学術振興会鉱物新活用111委員会・天然ゼオライト利用研究会
■編集者代表 湊秀雄
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